退去時のトラブルを防ぐには?賃貸物件の原状回復に関する注意点
2022/09/23
借り方マニュアル
賃貸借契約において、特にトラブルが多いのが退去時の原状回復です。退去後の室内の修繕・補修にかかる費用の負担割合は、賃貸借契約書上で定めます。しかし、内容を明確しておき、貸主と借主との間で納得したうえで引き渡しをしないと、円滑に退去手続きが完了しない原因にもなります。
本記事では賃貸物件の原状回復に関するトラブルを未然に防ぐために、注意しておきたいポイントについて解説します。
1.原状回復の基礎知識
まずは、賃貸借契約における「原状回復」の意味と、費用負担に関するルールの基礎知識を知っておきましょう。
1)原状回復とは?
「原状回復」とは、賃貸物件を契約開始時と同じ状態にすることを指します。入居中に傷や汚れがついてしまった箇所を元の状態に戻し、次に契約する人が気持ちよく入居できるようにすることを目的としています。
2)原状回復費用は誰が負担する?
賃貸物件の原状回復費用は、賃貸借契約書上で貸主と借主のそれぞれが負担する範囲を定めます。
年数の経過による劣化(経年劣化)や、通常の生活により発生する傷や汚れ(通常損耗)の修繕や補修に対する費用は、貸主が負担するのが一般的です。それに対して、入居者が故意につけた傷や汚れ、清掃を怠ったことで発生したカビ、喫煙によるヤニ汚れ、ペットがつけた傷などについては、借主に対して補修費用が請求されます。
3)原状回復費用の借主負担分は敷金から精算される
原状回復費用のうちの借主が負担する部分に関しては、賃貸借契約時に貸主に預けた「敷金」から差し引きます。差し引いた結果、残金があれば借主に返金し、逆に原状回復費用が敷金額を上回っている場合は、差額分を請求することになります。
2.退去時の原状回復でトラブルにならないための注意点
賃貸物件においては原状回復をめぐるトラブルが非常に多く、入居者が退去するたびに頭を抱えるオーナーが多いのも事実です。
退去時にトラブルに発展する理由は、大きく分けて下記の2つが考えられます。
・退去時に見つかった傷や汚れが、入居後に発生したものか判断できない
・契約書の内容があいまいで、どこまでが貸主または借主の負担範囲なのかがわからない
つまり、退去時の原状回復費用の負担割合で揉めないためには、「入居者がつけた傷や汚れがどれかを明確に把握すること」「契約書で費用負担の範囲や金額を具体的に定めておくこと」が必要です。
本章では原状回復をめぐるトラブルを回避するために、賃貸借契約締結時に注意しておきたいポイントを3つ解説します。
1)入居時の室内の状態を記録しておく
退去時に原状回復の対象になるのは、借主が入居した後に発生した傷や汚れであり、入居時に既についていた傷や汚れに関しては、補修・修繕の費用は請求できません。しかし、どこにどのような傷や汚れがあったかを最初に残しておかないと、退去時に「この傷は最初からあったもの」という主張ができてしまい、正しい費用請求ができないことにもつながります。
入居時に室内の状態を記録する方法はいくつかありますが、下記の2つを押さえておくのがおすすめです。
・国土交通省の原状回復確認リストを使用する
・動画や写真で記録する
リストにメモを残しておくだけでも記録として有効ですが、動画や写真をあわせて活用することで、どの部分にどれくらいの大きさの傷(汚れ)があったのかを、正確に残しておくことが可能になります。
近年ではオンラインで内見を済ませるケースもあるため、内見時の動画をそのまま残しておくという方法もあります。
2)敷金を多めに預かっておく
「敷金」とは、入居中に発生した家賃の不払い・未払いに対する担保としたり、室内の修繕にかかる費用を補てんしたりするために、賃貸借契約締結時に借主から預かるお金のことです。
先述の通り、退去時の原状回復費用は敷金から差し引かれることになりますが、敷金額よりも多くの費用が発生した場合は、借主に対して追加で費用を支払ってもらう必要があります。そのため、先に部屋の原状回復にどれくらいの費用がかかるかを把握しておき、原状回復費用を賄える金額を敷金として設定しておくと、退去後に借主への追加請求が発生しなくなるのです。
借主側としては、敷金がない・少ない方が入居時の初期費用を抑えられるためお得感がありますが、十分な敷金を設定しておかないと、退去時の原状回復費用の支払いトラブルの原因になります。借主に対しては、退去時に原状回復費用が発生すること、敷金から精算することを伝えたうえで、納得して敷金を預けてもらえるように工夫しましょう。
3)特約を設定しておく
原状回復費用の負担範囲について、経年劣化や通常損耗に対する費用を借主に請求する必要がある場合は「特約」に記載するようにします。
たとえば、ふすまのある部屋を貸し出して、退去時の張替え費用を借主に請求する場合や、前の入居者が残したブラインドをそのまま貸し出し、撤去費用を借主に負担してもらう場合などです。
こうしたイレギュラーな内容を契約書に盛り込む場合は、対象となる箇所・設備だけでなく、交換や撤去にかかる金額も記載しておきましょう。
特約を活用することで、原状回復費用の貸主負担分を減額することが可能になりますが、記載の仕方があいまいだと認められないケースもあります。契約書作成時にはできるだけ具体的な内容を記載するようにし、借主には契約時に特約の存在も必ず伝えるようにすると、退去時のトラブルを未然に防ぐことが可能になります。
退去時のトラブル回避には国土交通省のガイドラインも活用
契約書上で費用の負担範囲を明確に定めたり、入居時の室内の状態を記録したりしておくことで、退去時に原状回復費用をめぐるトラブルに発展するリスクを下げることが可能になります。
しかし、賃貸人が負担する範囲とされる経年劣化や通常損耗の程度は、人によって判断の基準が違うこともあり、すべてのトラブルを避けることは難しいというのも事実です。
新しい入居者と賃貸借契約を締結する際には、国土交通省が定めるガイドラインを参照したり、不動産会社からの助言を受けたりして、慎重に契約書の内容を決定するようにしましょう。
●「現状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は国土交通省のホームページで確認できます。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html